覚えている


昔のことはよく覚えていなくて
記憶力がとぼしくて
時々思い出そうとしてみては
どうにもこうにも思い出せない事もあって。

くやしくなってみたりもして。

けれど、忘れたくないと思っていた事は覚えてる。
頭の中でなんどもリピートしてたから。

だからほんとうにはおぼえていることも、たくさんある。
一緒に行った場所、会った時間、天気、食べたもの、
かわした言葉、来ていた服、持っていたもの、想った事。

けれど、そのあまりにも覚えている記憶は
覚えすぎていて気持ち悪いんじゃないかと。
わたしは忘れたふりをする。
そうだったっけ。そう言って、そうだったかも、なんて。


去年、小学校の同窓会で、センセイに会った。
とても変わったセンセイで、きちんとした格好が出来ないセンセイで、
入学式も卒業式も写真撮影も、正装してこないようなセンセイで。
けれど作文がだいすきで、字はとてもきれいで、物知りで、
ちぐはぐなセンセイだった。

つまるところ、とても印象に残っていた。
小学校なんてちっとも良い思い出のあるクラスじゃなかったけど
センセイが来るって言うから、顔をだしたんだ。

センセイが、「覚えてるかわからないけど」ってわたしにいう。
異文化交流会で、韓国の先生がきてくれて、
きみは熱心に韓国語を聞いていたよね。

もちろん覚えていた。
その先生の名前も、ノートに書いた韓国語も、
先生をお見送りに駅まで行った事も。
名前を告げると、センセイは困ったように、
そこまでは覚えてないけど、と言った。

覚えているということは嬉しい事だけれど、
覚えすぎているということはちょっと、ね。きっと。